粒度を間違えると、棚卸しは失敗する
棚卸しでよくある失敗は、粒度が粗すぎることです。「経理」「営業」「総務」と書いた紙を前にしても、次の一手は出てきません。
逆に細かすぎても止まります。「メールを開く」「件名を読む」まで割ると、書き出す作業自体が終わりません。
ちょうどよい粒度は、「誰かに引き継ぐとき、1行で説明する単位」です。「請求書を作って送る」「勤怠の締めを確認する」「問い合わせに一次返信する」。この単位なら、任せられるかどうかを判断できます。
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公開日 2026年9月9日 / 著者 松浦 誠治
「まずどの業務からAIを入れればよいか分からない」。この状態でツールを契約すると、道具だけが増えて誰も使わなくなります。
先にやることは棚卸しです。ただし、やり方を間違えると時間だけかかって何も決まりません。
棚卸しでよくある失敗は、粒度が粗すぎることです。「経理」「営業」「総務」と書いた紙を前にしても、次の一手は出てきません。
逆に細かすぎても止まります。「メールを開く」「件名を読む」まで割ると、書き出す作業自体が終わりません。
ちょうどよい粒度は、「誰かに引き継ぐとき、1行で説明する単位」です。「請求書を作って送る」「勤怠の締めを確認する」「問い合わせに一次返信する」。この単位なら、任せられるかどうかを判断できます。
項目を増やすと埋まりません。次の4列で足ります。
| 誰が | その業務を実際にやっている人。役職ではなく個人名で書く |
|---|---|
| 何を | 1行で説明できる単位。手順ではなく、成果物で書く |
| どのくらい | 頻度と1回あたりの時間。正確でなくてよい。感覚で構わない |
| やり直せるか | 外に出ていく行為か、社内で完結する行為か |
4列目が要です。ここが「外に出ていく」業務は、AIに実行させず準備までにとどめます。判断の根拠は「AIにどこまで任せるか」の線引きに書きました。
役職で書くと、属人化が見えなくなります。「経理担当」と書けば組織として機能しているように見えますが、実際には特定の一人しかできない、という状態が隠れます。
個人名で書くと、同じ名前が並ぶ列が出てきます。そこが止まったときに会社が困る場所です。
私は人事・労務の実務を約20年、管理部門の新設を2社で担当してきました。棚卸しをして最初に出てくるのは、たいてい「この人が休むと止まる業務」の存在です。
属人化した業務をAIに任せようとすると、多くの場合ここで止まります。手順は書き出せるのに、判断基準が書けないのです。
「この請求書は承認してよいか」「この問い合わせは誰に回すか」。ベテランは即答しますが、なぜそう判断したかを説明できないことがあります。
これはAI導入の障害ではなく、棚卸しが生んだ最大の収穫です。判断基準が言葉になっていない業務は、人がやっていても品質が安定しません。引き継ぎもできません。
AIに任せるかどうかにかかわらず、ここを言語化する価値があります。
書き出したら、次の2つを満たす業務を1つだけ選びます。
| 条件1 | やり直せる業務であること(外に出ていく一手を含まない) |
|---|---|
| 条件2 | 頻度が高いこと。月1回の業務を自動化しても、効果が見えない |
最初から一番大きな業務を狙わないことです。小さく動かして、社内に「使える」という実感が残るほうが先に進みます。
全社の棚卸しは負担が大きいので、まず1部署・1週間分で試してください。
その週に実際にやった業務だけを、4列で書き出します。網羅を目指さないことです。思い出せないものは、その週に発生していないか、重要度が低いかのどちらかです。
この最小版でも、同じ名前が並ぶ列と、判断基準が書けない業務が見えてきます。
「AIにどこまで任せるか」の線引きをどう作るか:4列目の判断の根拠。
中小企業向けAI活用チェックリスト:着手候補を業務別に整理しています。
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執筆:松浦 誠治(5Elements of Nature合同会社 代表/広島県福山市)。人事・労務の実務約20年。管理部門の新設を2社で担当。経歴の詳細